皆さんはサブカル漫画を読んだことはありますか?
みんなに愛されるものもちろん素敵だけれど、誰も知らないような自分だけのお気に入りを見つけたいという方も多いのではないでしょうか。
それに、何か特定の分野に詳しいことってちょっとかっこいいですよね。
様々な困難を乗り越え、最後にはハッピーエンドを迎える少年漫画的な展開はもちろん最高。
でも僕は、リアルで生々しい感情に少しの愛を加えたサブカル漫画でしか知ることのできない感情もあると考えています。
今回は、ヴィレヴァンで2年ほど書籍担当をしていたことのある最中(@tabetabe_mnk)が、おすすめのサブカル漫画を8つ紹介します!
そもそも、サブカル漫画って何なんだろう
実は、「サブカル漫画」というジャンルは明確に定義されているものではありません。
しかし、僕はサブカル漫画には共通する特徴があると考えています。
それは、「青くて、痛くて、どろどろしている」こと。
表に出すにはあまりにも鋭利すぎて、正しすぎて、生々しすぎる感情。
表に出すにはあまりにも私的すぎる出来事。
誰にでも起こりうるそれらを、どこまでもリアルに表現したのがサブカル漫画であると僕は考えています。
そんなサブカル漫画ですが、作品の雰囲気でざっくりと4つに分けられると考えています。
サブカル漫画のジャンル
- エモ系
大人と子供の間で揺れ動く若者の恋愛や青春、焦燥感を描いた作品。
共感できる部分も多く、初心者におすすめ。
- 不穏系
理不尽な出来事や人間の狂気、複雑な人間関係を描いた作品。
もやもやとした読後感が魅力で、心の奥深くに突き刺さっていつまでも抜けない感覚が癖になる。
- やさしい系
不安定な線で描かれる、ほっこりとする作品。
特に何でもない日常を描いたものや、少し不思議な世界を描いたものがある。
- エロ・グロ・ナンセンス系
グロテスクでエロティック、不条理で耽美。タブーとされる事柄にも深く切り込むthe サブカルな作品です。
かなり好みは分かれますが、これがハマればサブカル沼から抜け出せなくなる。
この記事では、各ジャンルでおすすめの作品を紹介します。
気になる作品があればぜひ読んでみてくださいね!
おすすめサブカル漫画【エモ編】
大人になれない大人たちの最後の青春【ソラニン/浅野いにお】
『ソラニン』のあらすじ
ストレスフルなOL生活に終止符を打った芽衣子と、音楽の夢を抱きながらも一歩踏み出せないままフリーターを続ける種田は、不安定ながらも支えあって一緒に暮らしていた。
その後、芽衣子の後押しもあり、デビューを目指し一歩踏み出した種田。
2人は、かつて大学の軽音部仲間であったバンドメンバーやその恋人と束の間の青春を謳歌する。
種田は『ソラニン』という曲を作りレコード会社に持ち込むが、なかなかうまくいかない。
デビューへの挑戦は失敗に終わり、再びなんでもない生活に戻る二人。
そんな中、種田は芽衣子に別れを切り出す。
「散歩に行ってくる」と言ったまま帰ってこない種田を待つ芽衣子が改めて聴いた『ソラニン』は、自分に向けた別れの歌のように感じられた。
『ソラニン』を試し読みする(SHOGAKUKAN COMIC)
『ソラニン』のおすすめポイント
1つめは『ソラニン』です。作者は「サブカル漫画といえばこの人!」と言っても過言ではないほど有名な浅野いにおさん。
ソラニンは、誰でも共感できるであろう普遍的なテーマを描きながら、ただの青春音楽漫画では終わらせないような魅力がある作品です。
学生の頃は楽しかったし何でもできる気がしたのに、今では周りと同じような服装で、同じような仕事をしている。
周りの人間は大人に見えるのに、自分だけ取り残されているように感じる。
特に現状に不満はないけれど、毎日ぼんやりとした不安を抱えて生きているという方は多いのではないかと思います。
この作品は宮崎あおいさん、高良健吾さん主演で映画化されているので、どこかで名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
種田が作った曲のタイトル「ソラニン」とは、じゃがいもの芽にある毒のこと。
毒ではあるのだけれど、ソラニンがないとじゃがいもは生きていけません。
芽衣子と種田の関係を表した秀逸なタイトルです。
また、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲『ソラニン』は漫画の作者である浅野いにおさんが作詞を担当しており、種田の人間性、思考を深く知るのに最適です。
以下にソラニンの歌詞を一部抜粋します。
たとえばゆるい幸せがだらっと続いたとする
きっと悪い種が芽を出してもうさよならなんだ
ゆるくて起伏の無い生活がずっと続けばいいなと思っていても、その幸せは小さな不安や不満にじわじわと犯されています。
種田は大人になることから逃げながらも、どこかで「このままではいけない」と思っていたのかもしれませんね。
人生は空回り。この関係は、愛か情か【南瓜とマヨネーズ/魚喃キリコ】
『南瓜とマヨネーズ』のあらすじ
ツチダは同棲中の恋人・せいいちの音楽の夢を支えるためにアルバイトをしていた。
しかし、せいいちはスランプに陥っており曲が書けず、毎日家でゲームをしたりDIYをしたりと自堕落な生活を送っていた。
そんな中、ライブハウスのアルバイトではお金が足りないと感じたツチダは、せいいちに内緒でキャバクラで働き始める。
せいいちの夢を支えるどころか、生活費のために借金がかさんでいたツチダは、客に持ち掛けられた愛人契約を飲んでしまう。
キャバクラと愛人契約のことを知ってしまったせいいちは、心を入れ替えバイトを始める。
ツチダもキャバクラを辞め、再びライブハウスで働くことに。
そんな中、ツチダは昔の恋人・ハギオと再会し、ハギオとの関係にのめりこんでいく。
『南瓜とマヨネーズ』のおすすめポイント
続いて紹介するのは魚喃キリコさんの『南瓜とマヨネーズ』です。
この作品は、せいいちのために行動するツチダがどんどん空回りしていって、結果的に昔の恋人・ハギオとの間で揺れ動く恋愛マンガです。
正直に言うと、僕は主人公のツチダには全く感情移入できませんでした。
全編を通して、ツチダがなんでそんなことをするのか全く分からなかったからです。
でも、僕はこの作品を読むのに、ツチダに共感する必要はないと考えています。
むしろ、その「共感できなさ」こそがこの作品を味わい深くしているポイントなのではないでしょうか。
「追い詰められた結果、自分がどうしてそうしているのかわからなくなってしまう」のは誰にでも起こりうることです。
ツチダ本人ですら、自分が何でこんな行動をとっているのかわかっていなかったのかもしれませんね。
せいいちのことを大切に思っていること、一緒にいる理由が愛ではなく情になってしまっているのにうすうす気づいていること、ハギオが忘れられないこと。
言っていることとやっていることが噛み合っていないツチダですが、そういった思いのすべてに嘘はなかったのではないかと思います。
おすすめサブカル漫画【不穏編】
自意識に苛まれるモブ女子の独立戦争【泣いたって画になるね/畳ゆか】
『泣いたって画になるね』のあらすじ
親友で幼馴染のリコは、かわいくて優しい、クラスの頂点。
幼いころから常にリコと一緒だったモブ女子・小枝は、実はずっと前から気づいていた。
「あたしは、コイツが嫌いだ。」
写真部の男子と好きな歌手の話で意気投合した小枝は決意する。
誰かの人生の脇役から、自分の人生の主人公へ。
かくして、モブ女子・小枝の独立戦争が始まった!
小枝の戦いと恋の行方は……?
『泣いたって画になるね』を試し読みする(SHOGAKUKAN COMIC)
『泣いたって画になるね』のおすすめポイント
コチラの作品の作者・畳ゆかさんは、先ほど紹介した浅野いにおさんの愛弟子。
背景のタッチ、心の内側の表現など、随所でいにおの影響が感じられます。
この漫画のテーマを一言で表すと、「陽キャのお前に陰キャのあたしの何がわかる!」だと思います。
「陽キャ」とか「陰キャ」とか、あまり気持ちのいい言葉ではありませんよね。
僕も好きではないのですが、その嫌悪感こそがこの作品の重要なポイントであると考えています。
僕は正直「陰キャ」側だと思うので、小枝の気持ちが痛いほどわかりました……。
全てを持っている恵まれた人には、陰キャの気持ちなんて理解することはできません。
陽キャの何気ない行動が、無意識の一言が、陰キャの自意識を削っていきます。
しかも、その行動に悪意がないのがわかるから、余計に自分が悪者のように思えて嫌になってしまうんです。
優しい人気者は、そもそも「陽キャ」とか「陰キャ」とか、全く考えていないですよね。
でも、世界の反応が、現実が嫌でもその差をくっきりと、グロテスクに浮き上がらせていくのです。
自意識に苛まれたことのある方なら必ず刺さる、劇薬のような作品です。
母子の繋がりは、いつまでも断ち切れない【血の轍】
『血の轍』のあらすじ
中学2年生の長部静一は、過保護なママ・清子のことを周りに少し馬鹿にされながらも平凡に暮らしていた。
ある日、長部一家は、親戚一家とハイキングに行くことに。
休憩中、トイレに行くついでに甥のしげちゃんと2人で崖の近くに遊びに行く静一。
崖ギリギリのところでふざけるしげちゃんはバランスを崩すが、間一髪のところで清子に助けられる。
安心する静一であったが、清子は一度は抱き寄せたしげちゃんを再び崖に突き落としてしまう。
こちらに振り返ったママは、なぜか聖母のような微笑を浮かべていた……。
『血の轍』を試し読みする(SHOGAKUKAN COMIC)
『血の轍』のおすすめポイント
『血の轍』は、『悪の華』などで有名な押見修造先生の作品。
この作品は毒親がテーマのサイコサスペンスです。
何を考えているのか全く分からないママのミステリアスさも魅力のひとつですが、物語の主軸は静一の苦悩と葛藤にあります。
血の繋がりというものは、決して断つことのできないものです。
静一にはマザコン気質がありますが、一方でママのせいで人生がめちゃくちゃになっているという苦悩も抱えています。
毒親によってこじれた静一の人格と人生を悲痛に、内省的に描いたこちらの作品。
押し寄せる衝撃の展開の数々に、どんどん読み進められます。
メンタルへのダメージもすごいので要注意!
おすすめサブカル漫画【やさしい編】
虚実入り混じる、優しくも不思議な日常【おむすびの転がる町/panpanya】
『おむすびの転がる町』のあらすじ
少女はベンチで休憩中に、坂道に転がるおむすびと、それを追いかける少年を見た。
「”おむすびころりん”だ」とひとりでつぶやくが、戻ってきた少年は大きなつづらを抱えている。
「本物の”おむすびころりん”だ……!」
少女は、お礼目当てでおむすびころりん攻略を始める……!
表題作『おむすびの転がる町』の他10作、日記、コミックエッセイを含む短編集です。
『おむすびの転がる町』のおすすめポイント
panpanya(ぱんぱんや)さんの作品の特徴は、「日常と異世界がひとつなぎになっていること」です。
何でもない日常風景に、二足歩行のカエルやツチノコなど、不思議なものが当たり前のように入り込んできます。
かわいらしくてちょっと不気味なキャラと世界観が癖になってしまいます。
時折、科学知識や雑学の解説が入るのですが、そのどれもが虚実入り混じった内容となっています。
- 筑波はガマガエルの数が多く、ガマ油が有名
- 「筑」の字はガマガエルの姿がもとになってできた(諸説あり)
このような雑学が入るお話があるのですが、これってどこまでが本当でどこからが虚構なんでしょうか?
まるで現実の世界と漫画の世界がつながってしまうような不思議な感覚に陥ってしまいます。
また、終わりの見えない坂道や街路樹、道端の空き缶など、何でもないものに目を向ける感性やその描写も魅力のひとつです。
読んだ後には、世界を見る目が少し変わってしまうこと間違いなしです。
すごくふしぎな世界の、特になんでもないこと【と、ある日のすごくふしぎ/宮崎夏次系】
『と、ある日のすごくふしぎ』のあらすじ
ささやかな超能力のせいで親友とけんかしてしまった少女、新聞を縛るヒモやラップがいつも少しだけ足りない運命の男、作った作品を割り続ける陶芸家……。
SFな世界観を軸に、愛すべき「ちょっとはみだしちゃった人たち」の「と、ある日」を描いた32の作品からなる短編集。
『と、ある日のすごくふしぎ』を試し読みする(Hayakawa Books & Magazines)
『と、ある日のすごくふしぎ』のおすすめポイント
不安定で今にも消えてしまいそうな線で描かれる世界と登場人物の悲しげな目は、まるでキャラクターの繊細で優しい心を投影しているように感じられます。
僕たちは、うまくいかなかったら落ち込み、人と違うことに不安を感じてしまうものです。
「そのままでもいいんだよ、ひとりじゃないよ」と心のやわらかいところを、愛にあふれた作者の視点で優しく包み込んでくれる作品です。
宮崎夏次系(みやざき なつじけい)さんは、漫画界のみならず、カルチャー界、音楽界、アート界など各方面にファンが多い漫画家さんです。
生涯ピザ無料に当選した男、パンツの穴に転生した少年、亡くなった妻の手料理を再現するマシンを作る男。
全てのお話が突飛な設定でまったく訳が分からないのに、なぜかどうしようもなく愛おしくて温かい気持ちになります。
それは、作者の世界を見る目が優しさと愛にあふれているからではないかと思います。
おすすめサブカル漫画【エロ・グロ・ナンセンス編】
少年たちの狂気的な結束とその崩壊【ライチ☆光クラブ】
『ライチ☆光クラブ』のあらすじ
工場の排気ガスと油に覆われた町・螢光町のとある廃墟に、9人の少年の秘密基地「光クラブ」があった。
圧倒的なカリスマ性を持つリーダー・ゼラを中心に、「とある計画」のために機械を作成していた。
その機械の名前は「ライチ」。そして彼の目的は美しい少女を攫ってくることであった。
少年たちの社会に「女性」が入り込むことで、光クラブの結束は揺らぎ始める……。
『ライチ☆光クラブ』のおすすめポイント
この作品を一言で表すなら「狂気」です。
エロ・グロ・ナンセンスという概念を体現したかのようなこの作品は、サブカル漫画界でも有名な古谷兎丸(ふるや うさまる)先生の作品です。
「ライチ☆光クラブ」は2006年の作品なのですが、今なおカルト的な人気を誇る作品です。
光クラブは殺人、暴力などめちゃくちゃなことをやっています。
しかし、彼らの行動は大人になることを拒む少年たちの闘争でもあるといえます。
心も身体も大人に変わりはじめる14歳の彼らの抵抗には儚さと美しさすら感じられます。
昭和初期、見世物小屋に拾われた少女の悲劇【少女椿】
『少女椿』のあらすじ
昭和初期、病気の母と貧しい暮らしをする少女・みどりは、花を売ることでなんとか生活していた。
ある日、花売りから帰ったみどりが見たのは、鼠に腹を食い破られて死んでいる母の姿だった。
ひとりになってしまったみどりは、花売りの仕事中に出会った男を訪ねるが、奇人変人が集まる見世物小屋「赤猫座」の下働きをすることになってしまう。
『少女椿』のおすすめポイント
こちらの作品は、独特な絵柄と、不条理で救われない展開が魅力です。
小人症の奇術師、両腕の無い包帯でぐるぐる巻きの男、蛇女……。
見世物小屋の面々は根っからの悪人というわけではないのですが、境遇が境遇なので性格が歪みまくっています。
そんな癖の強すぎるキャラクター達ですが、時折人間的な弱さや信念が垣間見え、どこか魅力的です。
昭和初期「貧しい少女が両親と離れ離れになり、最終的に幸福な結末を迎える」という物語はよくあるものだったそうです。
そんな物語をどこまでも悲劇的に作り替えた丸尾末広先生、鬼畜すぎる……。
これであなたもサブカルデビュー!
以上、僕的サブカル好き入門漫画を8つご紹介しました。
僕はもちろん、少年漫画的な熱くてロマンチックなお話も大好きです。
でも、心の中に浮かんだ感情を飾り付けることなくリアルに吐き出した作品だからこそ、心に刺さるものもあると感じています。
これらの作品が皆さんの心を貫くようなものになることを祈っております!
最後まで読んでいただきありがとうございました!